医院名:マロニエ矯正歯科クリニック 
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矯正コラム

2022.06.25

親知らずを抜歯してインビザラインを矯正する事について

質問

親知らずが4本ありしっかりとはえています。
その為?か歯は前に来る習性があるので前歯が押されて叢生となっているのではないか?と言われました。
Eラインは少し下唇が前から出る位です。口ゴボでも出っ歯でも有りません。

1つ目は上下左右5番目の歯を抜きワイヤー矯正です。

2つ目はインビザラインです。
1つ目の歯医者で進める気持ちも有ったのですが、歯の重なりは素人の私が見ても5番目の歯2本分より狭く多分1本分くらいの重なりです。

2番目の歯医者では親知らずを抜いて後ろに必要なだけ歯を動かして4番や5番は抜かないと言うものでした。

写真もなく判断は難しいかと思いますが歯は土台となる骨が無いと動かないかと思います。

親知らずが有ったと言う事は骨が有りちゃんと後ろに動くと言う事でしょうか?

またその様な事例は多々有るのでしょうか?

追加で4番を抜く事が無いか心配です。

親知らずは元々無い方もおられ、虫歯になり易く4番や5番を抜くより親知らずの抜歯なら納得出来そうだと思っています。

何より5番を2本抜歯により不必要に広すぎる隙間を作らなくて良いならその方が良いのではないかとも思いますがどうなのでしょうか?

回答

軽度叢生に関して抜歯矯正か非抜歯矯正かをお悩みということですね。
どちらでも治すことは可能でしょうけれど、仕上がりの顔立ちが変わる可能性があります。
口ゴボではない、というのはご自身の主観であると思いますが、
Eラインも絶対的な基準ではなく、Eラインがすべてではありません。
実際には検査してみての判断となるでしょう。お好きな方を選べばいいと思います。

まず、でこぼこの原因は、スペース不足です。
歯が大きかったり、顎が小さいとスペースが足りなくなり、でこぼこや出っ歯になります。
でこぼこや出っ歯を治すためには、スペースを作る必要があります。
その方法の中に、抜歯や遠心移動があります。
そもそも、抜歯か遠心移動の2択ではなく、スペースを作る方法は全部で5種類あります。
その方法を組み合わせて、スペースを必要なだけ獲得します。

①抜歯     スペース多い
②顎を拡げる スペース少ない
③歯を削る  スペース少ない
④歯を後方移動する スペース少ない
⑤歯を前に出す スペースが足りない場合

①抜歯
たくさんスペースが欲しいなら、抜歯が効果的です。1本あたり7mmも作れます。2本なら14mmです。
でこぼこが強い場合や、前歯をなるべく引っ込めたい場合は、抜歯をすべきでしょう。
歯の本数は減りますが、28歯咬合であっても、24歯咬合であっても、健康面では差はありません。
歯の本数が減ることに抵抗があるのはもちろん理解できますし、
矯正歯科医師も好き好んで抜歯することはありません。

矯正治療をしないのであれば、歯が無くなった部分には補綴物を入れる必要があり、
人工物は長持ちせず、費用も掛かるため、歯は無くさない方がいいです。
矯正治療なら抜歯したスペースは消滅し、残った歯で良好な咬み合わせを作るので、
「矯正治療のための抜歯は問題が無い」とお考え下さい。
幼少期から、歯医者から、周りから、「歯は1本でも多く残すべき」となかば洗脳に近い形で
刷り込まれていると思いますが、矯正治療のためには抜歯して大丈夫です。

②顎を拡げる
上下の顎を横に広げることでスペースを作りますが、成長期でなければ効果は薄いです。
無理に顎を拡げようとすると、歯が歯茎の外に飛び出し、歯茎が下がることになります。
ご年齢的にあまりお勧めではないでしょうが、成人でも大丈夫そうなら組み込むこともあります。
やったとしても、3mm程度しか作れないので、顎を拡げる単独ではほとんどスペースが出来ません。

③歯を削る
歯の側面部を問題ない範囲で削ります。1歯あたりは0.5mmまで大丈夫とされており、
前歯だけなら3mmほど、奥歯まで削れば5mmほどのスペースが獲得できます。
心配される方もいますが、少量であれば歯は削ってしまって問題はありません。
インビザラインは得意な面と不得意な面がありますが、歯の側面部を削ることを前提としています。
歯1本分のスペースを遠心移動で解消するのは現実的では無いため、歯も削ることになるでしょう。

④歯を後方移動する
歯の後方を遠心といい、歯を後方に移動するのを遠心移動と言います。
非抜歯矯正を謳う矯正歯科は、親知らず抜歯による遠心移動を推奨するところが多いでしょう。
親知らずはいらない歯だし、小臼歯を抜かずに治療できるなら、素晴らしい治療だ、と思うかもしれませんが、
現実はそんなに甘くはなく、治療効果としてはあまり高くはありません。

親知らずはそもそもしっかり生えていたら抜く必要はなく、残せるなら残すべきです。
遠心移動は抜く必要のない親知らずを抜歯することになり、小臼歯抜歯と違いはありません。
遠心移動は、非常に時間がかかる処置であり、治療期間が延びます。
遠心移動は、インビザラインによって行うか、アンカースクリューによって行いますが、
インビザラインは本人の努力が必要になりますし、アンカースクリューも負担はあります。
遠心移動は、そこまでスペースを作れません。片側2mm、両側で4mm程度です。
遠心移動は、リテーナーで後戻りを防ぐことが出来ず、治療後の後戻りでまた奥歯が前方移動します。

というように、治すのも大変で、治療効果は薄く、結局崩れてしまうのが遠心移動となります。
遠心移動のおかげで抜かずに「理想的に」治った、というよりも、
遠心移動したけど効果が少なくて、治ったけども最初よりも出っ歯になった。
という事例は大量にあります。遠心移動自体は昔からある技術です。
インビザラインやアンカースクリューによって非抜歯矯正がブームとなっていますが、
さほどスペースが作れるものでは無く、「抜くべき人を抜かずに治しただけ」になることが多いように思います。

⑤歯を前に出す
①②③④を組み合わせてスペースを作りますが、合計してもでこぼこを改善するのに足りない場合、
でこぼこ分、歯が前に出て治ります。ネット上にある、矯正をして出っ歯になったというのは、
スペースを作り切れなかったということです。口元を出すために意図的に出っ歯にすることもあります。
スペースが余れば、前歯を後退させることが出来る、ということです。
前歯を下げるためには、でこぼこ分よりも多くのスペースを作らねばならないのです。

また、Eラインというのは、ネットではメジャーであり、我々も診断基準としていますが、
絶対的な基準とするにはすこし不確かなので、単純に信じるのは注意しましょう。
歯と唇はくっついているので、歯が前に出れば、唇は前に出ますし、逆も然りです。
ただ、鼻の高さ、唇の厚み、顎の高さにも左右されてしまい、表面上の点は変化します。
鼻はほとんど不変としても、加齢によって唇は薄くなりますし、筋肉が力めば顎は前に出ます。
また、少し太った、やせた、などでも変化しますし、基準とするにはやや曖昧です。
歯は出てるけど、Eラインは出ていない。歯は出てないけど、Eラインは出ている。
という人もいます。下あごが引っ込んでる人は相対的に口元が出ますし、しゃくれている人は逆です。
美しいとされる芸能人も、みんながみんなEラインピッタリではありません。
Eラインはあくまで参考程度で、歯の位置や角度も重視しなければなりません。

ここまでが前提のお話です。では、質問者様はどうするべきなのか。
そもそも、なぜ第二小臼歯抜歯なのか、という点が重要です。
抜歯すべきと言われた第二小臼歯は、すべて無傷の歯でしょうか?
詰めてある修復歯、被せてある補綴歯、神経を抜いた無髄歯ではないでしょうか?
いわゆる処置歯と言われる状態であるなら、処分するチャンスということです。
虫歯などで、一度歯科処置をしてしまった歯は、必ず再発します。
再治療、再々治療を繰り返すうち、いずれ抜歯になってしまいます。
つまり、傷物の歯は健全歯に比べると寿命が短いということになります。
非抜歯矯正をした場合、処置歯も残すことになりますから、いつか歯が無くなったことを考えなくてはなりません。
前述のように、人工物はあまり長くはもちませんので、抜歯矯正は処置歯を減らすチャンスでもあります。

また、抜歯矯正すべきだけどあまり口元を引っ込めたくない時に、第二小臼歯を選択します。
質問者様の言うように、でこぼこではあっても出っ歯でも口ゴボでもなく、
第一小臼歯を抜歯すると前歯が下がりすぎる状態なのでしょう。
下手をするとEラインよりも口元が引っ込んでしまい、老け顔になるかもしれません。
第二小臼歯を抜歯すると、前歯が引っ込みにくくなるため、口元が下がりにくくなります。
Eラインより口元が出ていると幼顔に、引っ込んでいると老け顔に見えます。
質問者様のご年齢や好みも加味したうえで、第二小臼歯抜歯を選択しているのだと思います。

第二小臼歯抜歯の場合、奥歯が前方移動しやすくなります。
それゆえに前歯が後退しにくくなるわけですが、親知らずを活かしやすくなります。
親知らずも歯ですから、邪魔でない限り、悪さをしていない限り抜歯する必要はありません。
スペースに余裕が出来れば、多少ずれた親知らずなら、歯として機能させることも可能です。
第二小臼歯を抜歯したとしても、親知らずを活用できたなら、本数的には抜いていないのと一緒です。
第二小臼歯よりも立派な親知らずであった場合、親知らずを残した方が利益がある場合もあります。

では、今度は非抜歯矯正について説明しますが、前述の②③④を組み合わせることになります。
歯の後方移動と、歯の側面部を削るのを行った場合に出来るスペースは6~8mm程度でしょうか。
質問者様のでこぼこを治すのに、足りるのであれば、前歯の位置が変わらずに歯並びが改善します。
もし、足りないのであれば、前歯が前に出る⑤の状態になり、出っ歯や口ゴボになってしまうということです。
今も多少口元が出ているとして、今以上に出てしまった顔立ちを許せるでしょうか。
非抜歯矯正は抜歯矯正よりも作れるスペースが少ないので、でこぼこ度合いによっては出っ歯になります。

ネットを調べれば、非適切な非抜歯矯正により、出っ歯になったり歯茎が下がったりした被害者の声がたくさんあります。
歯を支える歯槽骨に余裕がない場合、無理に非抜歯で並べると、歯が骨から飛び出して歯茎が下がります。
矯正治療自体が歯肉退縮を起こすリスクを伴いますが、歯は歯槽骨の中に入れてあげた方が良いです。
歯の角度も前方傾斜が強くなると、突き上げを起こし、前歯の寿命を縮めてしまいかねません。
当然、抜歯矯正よりも非抜歯矯正の方が魅力的に感じるかもしれませんが、口元以外のデメリットもあるのです。
矯正歯科医師も抜きたくない、患者も抜きたくないのに、抜歯矯正が多数を占めるのは理由があるのです。

昨今では、急速なマウスピース矯正ブームによって、マウスピース矯正を勧める歯科医院が増加しています。
単純な自費収益につながることと、参入障壁が低いため、レベルの伴わないマウスピース矯正が増えています。
2件目の歯科医院がマウスピース矯正を勧めてきたのは、本当にベストな方法として提案しているでしょうか。
マウスピース矯正は、抜歯矯正に利用するのは一定以上の実力が必要であり、非抜歯を勧める先生も多いです。
マウスピース矯正で集客し、利益を得たいがゆえに、マウスピース矯正ありきで非抜歯にされているかもしれません。
特に、インビザラインには割引になるノルマがあるので、歯科医師は症例数を増やしたがっています。

抜くべきか、抜かないべきか、それは質問者様がどのような状態にあるか次第です。
つまり、質問者様がどのような方法がいいかは、検査データが無ければ断定が出来ないということになります。
おそらく、ボーダーラインのど真ん中なのではないでしょうか。

・絶対抜いた方がいい人、
・どちらかと言えば抜いた方がいい人
・抜いても抜かなくてもいい人
・どちらかと言えば抜かない方がいい人
・絶対に抜かない方がいい人

と分類した場合に、抜いても抜かなくてもいい人なのだと思います。
こうなると、どちらかが正解、とは言えなくなります。どちらも正解で、どちらも不正解と言えます。
抜くメリットデメリット、抜かないメリットデメリット、両方とも考えうるので、意見が割れているわけです。

抜歯か非抜歯かを決めるのは矯正歯科医師ではなく、質問者様自身です。
ご自身が納得いく選択が出来るように、われわれ矯正歯科医師が検査をし、プランを提案し、
プランごとの利点欠点を説明したうえで、正しい理解のもと質問者様に選んでいただく。
というのが、本来あるべき流れです。矯正歯科医師がこの方法を選びなさいと指図する時代ではありません。

ただ、矯正歯科医師も色々な思想や経験・実力や手技が異なります。
前述の①②③④を全部やる先生もいれば、非抜歯矯正しかやらない先生もいます。
抜くプランしか提案していない1件目も、抜かないプランしか提案していない2件目の先生も、
それぞれの考えがあって発言していると思います。
プランも大事ですが、治療を行う歯科医師・歯科医院選びも大事なので、
長く付き合っていくうえで、信頼できると思う先生を選びましょう。
もしかしたら、3件目か4件目の先生の可能性もあります。
治療のプランニングは、矯正歯科医師によって異なるので、
「迷子」になっているとしたら、まだ探し続けても良いでしょう。

長文となっておりますが、質問文から類推できることはこのような形になります。
実際に口の中や顔立ち、レントゲンを拝見できれば、説明できることも変わるでしょう。
奥歯のずれや正中の位置、歯の大きさや歯槽骨の状態など、ここには書いていない診査項目もあります。
矯正の診断というのは、様々な要素を複合的に判断して考えられていくものです。
治療プランが一つしかない人もいれば、質問者様のように複数ある人もいます。
選ぶのは、質問者様なので、後悔の無い判断をしましょう。

ざっくりいうと、歯を引っ込めるなら抜歯、出ても問題ないなら非抜歯、
現状維持が望ましい場合は、ちゃんと検査をしないと何とも言えない、といった感じです。
どうしても決められないなら、非抜歯にしましょう。抜いた歯は帰ってきませんから。
非抜歯矯正から抜歯矯正へは移行することが可能です。実際にそうなる人もいます。
ただ、治療としては遠回りになりますし、前歯がジグリングを起こすので歯の寿命を縮めます。
できれば、最初から抜歯か非抜歯かが決まっている方が良いでしょう。

最後に質問にお答えします。

・親知らずが有ったと言う事は骨が有りちゃんと後ろに動くと言う事でしょうか?

動きます。2mmくらいは下がるでしょう。問題は2mmで十分かという点です。

・追加で4番を抜く事が無いか心配です。

非抜歯で行い、出っ歯になり、引っ込めたくば追加抜歯もあり得るでしょう。
インビザラインは5番抜歯が苦手なので、その際は4番になりますし、口元もかなり引っ込むでしょう。

・親知らずは元々無い方もおられ、虫歯になり易く4番や5番を抜くより親知らずの抜歯なら納得出来そう

何故でしょうか?これこそが先入観です。ちゃんと使える親知らずは小臼歯と価値は変わりません。
みんな親知らずを抜歯しますし、ネットにも書いてあるので仕方ありませんが。
親知らずだからと抜歯してしまい、矯正をやるときに「親知らずがあればよかったのに」と思うことはあります。
親知らずは抜いていい、健康な歯は抜きたくない、というのは矛盾していませんか?
良くない親知らずは抜歯しますし、親知らずの処遇は矯正のプランニング次第です。

・5番を2本抜歯により不必要に広すぎる隙間を作らなくて良いならその方が良いのではないかとも思います

抜歯矯正なら、でこぼこ改善後にスペースが余るでしょう。余ったスペースを使えば少し前歯が下がります。
前歯を下げなくていいと思っているのは質問者様の考えで、医学的には下げた方がいいかもしれません。
検査をせずに前歯を下げるか下げないかを議論しても答えはないので、検査を受けた歯科医院で相談しましょう。