医院名:マロニエ矯正歯科クリニック 
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矯正コラム

2022.01.24

楽器と顎変形症の関係について

質問

正確な診断をしていただいた訳では無いのですが、最近自分は顎変形症なのではと思っています。
顎の歪みは自分で鏡で見てもはっきりと分かり、下顎が左に歯半分くらいズレていて、少ししゃくれています。顎変形症の診断を受けた女性がSNSに投稿していた写真と自分の顎とを見比べてみても違いがないように感じます。
私は吹奏楽部でサックスを吹いていて、治療をしたくてもまずは矯正をしなくてはいけないのではないか、矯正をしたら楽器の演奏に支障が出てしまうのではないかと心配しています。そのためもし顎変形症の治療をするのだったら矯正は絶対に必要なのか、また矯正をしたら楽器の演奏に支障がでるかを教えていただきたいです。
また、楽器を吹く時にすぐに口周りや顎に疲れや軽い痛みを感じてしまうのですが、これは顎変形症によるものなのでしょうか。

回答

顎変形症かどうか、という点に関して、明確な線引きがあるわけではありません。
多少顎が曲がっている、多少顎がしゃくれている人というのはたくさんいます。
そもそも人間は左右対称に作られてはいないと、私は思います。
利き手もあれば、心臓も左にあります。生物である以上、対称性にこだわる必要はありません。

様々な骨格の人がいて、そのうえで様々な歯並びの人がいます。
多少の顎の曲がりがあろうと、手術をすることなく大半の人が矯正治療をしています。
程度によりますが、顎が曲がっていたら手術をしないと矯正できないわけであはありません。

ただ、「顎が曲がっている顔が嫌で、顔を治したい。」ということあれば、手術でないと改善されません。
骨を動かすか、歯だけ動かすか、が手術をするかどうかの基準です。
顎が曲がっているのに、手術をせずに矯正治療単独で治療すると、
当然骨は動かないので、顎の曲がりは改善されません。
よほどのレベルでなければ、手術しないでも歯並び・咬み合わせは治療できますので、
顎の曲がりを治したいかどうか、が手術をするかどうかに直結します。

もし、顎の曲がりを治したいとするなら、顎変形症という病名が付き、外科的矯正治療の適応となります。
これは、保険が適応になりますが、これは矯正治療と手術を両方行った場合のみです。
顎が曲がっているのを手術だけで治した場合は、整形とみなされて保険適応にはなりません。
あくまで、「咬み合わせを改善するために手術を併用しての矯正治療が必要である。」と判断されるから保険適応になるのです。

また、形成外科などでの手術単独はおすすめできません。咬み合わせがめちゃくちゃになってしまうからです。
今の歯並びのまま、手術で一気に動かしても咬みあうはずがありません。
めちゃくちゃになった咬み合わせをすべてセラミックを被せて強引に咬ませないとまともな咬み合わせにはなりませんから、
矯正を併用せずにちゃんと治す、とした場合には、自費の手術と、大量のセラミックが必要になり、
総額として数百万単位の費用が掛かるでしょう。その上で、削った歯の寿命は縮まってしまいます。
ですから、顎を切って動かしたいのであれば、正式なやり方は手術と矯正を一緒に行うことです。

保険適応になるのは、矯正と手術を両方行う場合です。
そのうえで、その治療を行える医療機関は限定されます。
顎変形症の治療を行う申請を出している医療機関のみで行えます。
大学病院か、一部の矯正専門歯科医院です。
「日本矯正歯科学会」のホームページから調べることが出来ると思います。
よくわからなければ、大学病院の矯正歯科へ相談に行くと良いでしょう。

なお、患者様が保険で外科的矯正治療を行えるかは、検査診断を行う矯正歯科医師の判断となります。
前述のとおり、保険適応になるのは、手術しないと治せないレベルで顎が曲がっている人です。
保険治療は、日本国民から集めた医療費を必要な人に向けて再分配をするためにあります。
手術しないでも健康上問題がない(矯正治療単独で十分)人については、保険適応にならない可能性があります。
ちょっと顎が出ている、ちょっと顎が曲がっているだけでは、手術が適応にならない可能性も高いでしょう。
保険で治療が受けられるかどうかは、診てくれる矯正歯科医師の判断にゆだねられます。
保険適応にならずとも、自費であれば同じような治療を受けられますが、3倍以上費用が掛かるでしょう。

まず、手術前矯正が1~2年ほどあり、全身麻酔の手術を行い、手術後矯正がまた1年程度あります。
なので、通常の矯正治療と同じように、2~3年もの治療期間がかかります。
手術をいつ行えるか、手術の結果次第で、治療期間はまたさらに伸びるかもしれません。

手術の時期は、顎の成長が完了している18才以降に行うのが一般的です。
つまり、17才の今から手術前矯正を行えるということです。
手術の時期が受験や進学などと重なる可能性があるため、開始時期は慎重に決めましょう。
いつでも手術出来る状態になっているのに、手術の予定が入れられないとなると時間を無駄にします。

手術後にちゃんと咬みあうように、手術前矯正が必要になります。
通常の矯正であれば、徐々に咬みあうように、見た目が良くなるように進んでいきます。
手術前矯正は、術後により咬みあうことを目的として、骨にとっていい位置に歯を動かします。
つまり、しゃくれはよりしゃくれていき、顎も治療開始前よりも曲がっていくことでしょう。
なので、より見た目は悪くなり、楽器も吹きにくくなっていきます。

手術をすると、一気に顎の位置が変わり、しゃくれや非対称は改善されると思いますが、
感覚が異なるため、おそらくまた楽器が吹きにくくなると思われます。
顔が腫れていたり、口唇に知覚麻痺が出ていたり、口も開きにくくなるので、
手術直後もまともに楽器は吹けないと思います。

通常の矯正治療であっても、歯に器具がついたり、前歯の位置や咬み合わせが変化していくことにより、
サックスなどの管楽器は吹き方が変わっていくと思います。皆さん、だんだんと適応して吹けるようになりますが、
変化の連続なので、いままでと同じように吹けることはないでしょう。
それにプラスして、手術の影響も出ますから、矯正が終わるまでの間、常に吹きにくいものと思ってください。

ただ、吹きにくくとも、みなさん頑張って楽器をやっています。矯正治療と管楽器を同時にやるということはそういうことです。
おそらく、同じ部活にも矯正をやっている人がいると思いますが、なんとか頑張っているのだと思います。
慣れはあるものの、急激な口腔内環境の変化にすぐに適応するのは難しいでしょう。
なので、大事な演奏会のある時期は、ブラケットをつけたり、歯を抜いたり、ブラケットを外したりしない方が良いでしょう。
大きな変化があると、その都度新しい吹き方に変えていかなければならないからです。

手術が終わったとしても、術後の咬み合わせを安定させるために術後矯正が約1年前後あります。
手術についても、ノーリスクというわけではなく、知覚麻痺の可能性や、思っていた顔にならない可能性もあります。
手術を併用した外科的矯正治療を行うということは、とても大きな判断となりますので、
ご家族の方とよく話し合ってやるかどうかを決めた方が良いでしょう。顔が変わってしまうわけですから。

口や顎が疲れたり、痛くなったりするのは、おそらく管楽器をやるうえで誰しも経験することではないでしょうか。
人体の構造に負荷をかけながら演奏しているわけで、体にいいはずがないと思います。
その症状が出やすいかどうか、というのは顎変形症が影響しているかどうかは何とも言えません。
歯並びや咬み合わせ、口の閉じにくさなどが原因で、より体に負荷がかかっている可能性はありえます。
直接的な原因ではないと思われますので、矯正治療をしたから、手術をしたから必ず改善されるわけではないと思います。
もしかしたら、良くなるかも、良くなったらいいな、程度にお考え下さい。悪くなる可能性もあります。

私の話になりますが、以前大学病院に勤務しているとき、音大生の患者さんがいました。
同じく顔面非対称で、顎変形症で手術を含む矯正をやって、楽器も管楽器です(ホルンかトロンボーンだったような)。
顎が曲がっていて頬の空気が非対称に排出されて上手に吹けない。
自分の演奏家としての一生にかかわる問題だから、少しでも改善されるなら手術をしたいと言っていました。
矯正期間中も、手術前後も吹きにくいことを説明して、それでもやりたいということで、治療しました。
口の中が変化していく中で、なんとか適応しながら吹き続け、治療を終えました。
卒業時にちゃんと矯正と手術が終わって、吹くのに慣れていたいということで、休学までしました。
結果、外科的矯正治療をしたことで、治療前よりも管楽器が吹きやすくなったと言っていました。

何が言いたいかというと、手術をするしないに関わらず、矯正中は楽器が吹きにくくなります。
それを了解済みで、演奏者たちはみんな矯正治療をやっています。
また、矯正治療をいつやるべきかという点に関して、早く始めれば早く終わりますが、
楽器への影響を考慮して、部活を引退してから始めるのでも良いと思います。

そもそも矯正治療が必要であるか、顎変形症と診断されるかなども含め、
一度矯正歯科へ受診されると良いと思います。
外科的矯正治療も視野に入れている(顔を変えたい)のであれば、
保険の矯正が出来る矯正歯科医院か大学病院矯正歯科を受信するのが望ましいと思います。

以上を回答とさせていただきます。よろしくお願いいたします。

 

引用:矯正歯科ネットの回答