医院名:マロニエ矯正歯科クリニック 
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矯正コラム

2022.01.05

一年動かない歯について

質問

食いしばりが原因で、すり減って短くなり、噛んでも下の歯との間に5ミリほど隙間があった歯を、マウスピース矯正でゴムかけして引っ張る治療をしています。
2ミリほどは動いたのですが、まだあと2ミリほど引っ張らないと隙間は埋まらない状態です。そこから1年近く経過したのですが、全く歯が動かず隙間が埋まらないままです。
ディスキングは何度もして、横の歯との間はスカスカなので、横の歯に引っかかっているわけではなさそうです。(担当医は、ディスキングする以外の対応はできないようです)
あまりに長期間ゴムかけしていると、歯根吸収してしまわないか心配ですが、レントゲンを撮って確認などはしてもらえていない状態です。(ぐらつきは無いです)
これは、もうこれ以上は動かないものとして諦めたほうがいいのでしょうか?このままゴムかけを継続していていいのでしょうか?
何かディスキング以外に、動かす方法はありますか?

回答

「歯並びのタイプ」「抜歯の有無」「治療期間」「マウスピース矯正の種類」が分かればより正確な回答になると思います。

特に、「隙間」という表現がどのような状況を示しているかが大切となります。
文面から考察すると①「出っ歯(上顎前突)で上下の前歯の前後的なずれがあり、咬みあっていない状態」
もしくは、②「上顎の歯と歯の間にスペースが空いており、そのスペースが閉鎖しない状態」のどちらかでしょうか。
おそらく①のこと指しているのではないかと思います。
なので、「出っ歯でマウスピース矯正を始めたが、なかなか出っ歯が治らない」と言い換えてご回答させていただきます。
全体的に歯を動かし、治療期間も長く、ゴムを併用するという点で、シェアも多いインビザラインと推定します。

上の前歯と下の前歯の前後的距離を「オーバージェット」と言います。
このオーバージェットが過大で前歯が咬合していない状態を「上顎前突」と言います。
文面にないので、おそらく歯を抜かずに矯正治療を行っているのだと思います。
非抜歯で上顎前突をマウスピース矯正で治療しようとしているのだと思いますが、これはとても難易度が高い治療です。

5ミリものオーバージェットがあるということは、おそらく奥歯のずれも強いのだと思います。
上下の奥歯の位置関係を「臼歯関係」と言いますが、臼歯関係がⅡ級の状態となっていると思います。
非抜歯でⅡ級の臼歯関係を改善するとなると、上顎臼歯の遠心移動(後方移動)を行う必要があります。

しっかりとした正常咬合にするためには、臼歯関係をⅠ級にする必要があります。
「上の第一大臼歯⑥に対して下の第一大臼歯⑥が約3ミリ前にあり、ジグザグに咬んでいる状態」

⑦ ⑥ ⑤ ④ ③ ② ①
 ⑦ ⑥ ⑤ ④ ③②①   ←前歯当たる

↑これが臼歯関係がⅠ級であるという状況です。歯並びのでこぼこやスペースを無くし、
臼歯関係をⅠ級にするとちゃんと前歯が咬みあいます。歯並びがパズルのように組みあがるわけですね。

⑦ ⑥ ⑤ ④ ③ ② ①
⑦ ⑥ ⑤ ④ ③②①    ←前歯当たらない

↑これがおそらく患者様の状態で、Ⅰ級よりも上の⑥が前に位置する状態がⅡ級です。
こうなると前歯が咬みあいません。初診時からきっとこの状態だったのではないでしょうか。
この状態から歯を抜かずにⅠ級にするためには、上の歯を全体的に後方移動させる必要があります。
歯を奥に移動させることを「遠心移動」と言いますが、この遠心移動は矯正歯科においてかなり難しい動きになります。

遠心移動は歯を動かす向きとしては難しく、抜歯治療した方が簡単なことが多いです。
旧来は様々は遠心移動を行う装置を用いてなんとかⅠ級にしていました。
現在はワイヤー矯正であれば歯科矯正用アンカースクリュー(インプラントアンカー)を併用しながら行う方法が増えています。
マウスピース矯正自体は昔からありますが、技術や治療法の進化により、
「歯の遠心移動がマウスピース矯正ならやりやすい」という噂が矯正歯科界に流れ、一時期ブームとなりました。
追加装置を用いずに、マウスピース矯正のみで歯の遠心移動が可能ということであれば、
矯正歯科医師としてもシンプルかつ簡便に治療が可能なので、好んで非抜歯マウスピース矯正を選ぶドクターも多いでしょう。

ただ、実際はそこまで単純な話ではなく、遠心移動がうまくいかないケースもかなり多いなというのが私の感想です。
それなりの数をマウスピース矯正をしていますが、治療が難航するケースはすべて「上顎前突非抜歯ケース」です。
「上顎の歯の遠心移動が出来る」というのが上顎前突を非抜歯で治す大前提となりますが、
きっとそれがうまくいっていないのだと思います。うまくいかない原因は様々だと思います。

・そもそも歯が遠心移動できるスペースが上顎骨の最後方部に無い。
レントゲンやCTを撮影すれば後方余地を調べることが出来ます。親知らずがあるなら当然抜歯が必要です。
骨から歯が飛び出すことはできないので、遠心移動自体が不可能となります。
この場合は治療の前提が覆されるので、治療方法自体を変更する必要があります。

・毎日必ず20時間以上顎間ゴムを使用していない。
歯の後方移動自体は、マウスピースが行います。顎間ゴムが後方移動させているわけではありません。
奥歯を後方移動しようとする力の反作用を抑えるために顎間ゴムが必要になります。
遠心移動の場合は20時間以上ゴムをかけ続けないとうまくいかないことがほとんどです。
治療のモチベーションも次第に下がりますから、ゴムの使用時間が減少すると効果が出ません。
マウスピース矯正というもの自体が、様々な反作用を抑えるためのゴムかけが必須の治療となります。

・治療計画(クリンチェック)が適切でない。
マウスピース矯正は、歯をどのように動かすかをあらかじめ設定します。
事前に設定してあるように歯が動いていくわけですが、そのプランニング自体が間違っている可能性もあります。
マウスピース矯正はこのプランニングが治療の9割を占めており、プランニングが正しければちゃんと治りますし、
間違っていれば絶対にちゃんとは治りません。もしかしたらちゃんと治りようがないプランニングなのかもしれません。
マウスピース矯正は、数回マウスピースを再作製しながら修正しつつ治療していくシステムです。
うまく進んでいないのであれば、次の再作製時のプランニング時に軌道修正する必要があるでしょう。

歯のディスキングについてですが、前歯を下げるためには歯を削ってスペースを作るのが手っ取り早いです。
数回ディスキングを行っているということですが、回数ではなく、削った合計が大事です。
1本あたり0.5mmまでならディスキングしても問題はないだろうとされています。
どんなに多くとも1歯あたり1mmでしょう。それ以上は歯へのダメージとなる可能性があるでしょう。
マウスピース矯正自体、特に非抜歯であれば全体的なディスキングを前提としていると思いますので、
ディスキングを行うこと自体はおかしなことではありませんが、限界があるということです。

顎間ゴムですが、使い過ぎによる歯根吸収はほぼ生じないと思います。
ワイヤー矯正であれば、顎間ゴムの過剰使用による歯肉退縮や歯根吸収は起こる可能性があると思いますが、
マウスピース矯正は、マウスピースが歯列全体を覆っているので、ゴムによる悪影響はほとんどないでしょう。
ただ、矯正治療自体が歯根吸収や歯肉退縮が起こるリスクが必ず付きまとうものではあります。

歯ぎしりをしているということですが、歯ぎしりが歯の動きを悪化させている可能性はあります。
歯を動かす力よりも歯ぎしりの力の方が強いので、歯ぎしりが強い人は歯が動きにくいです。
マウスピース矯正は歯をカバーしてしるので歯ぎしりの影響は出にくいですが、
歯ぎしりによってマウスピースが変形していると適切に歯が動かない可能性もあります。

ここからの対応として、おそらく3種類やり方があります。
「抜歯矯正に切り替える」
「他の遠心移動方法に切り替える」
「前咬みの癖をつける」
です。今のままの方法で行くとなると、可能な限りディスキングでスペースを作るか、ゴムをやり続けるしかないと思います。
つまり、担当されている矯正歯科医師の方針は誤っていないとは思います。
ただ、1年間ほとんど変化が無いとなると、今以上には改善されず、前歯が当たらない状態で治療が終了となるかもしれません。
必ず、前歯を咬合させるとなると、大幅な方針転換が必要になります。

・抜歯矯正に切り替える
非抜歯矯正治療がそもそも無茶なプランであったとして、上の歯2本もしくは上下で4本抜歯に切り替える方法です。
抜歯に抵抗があるかもしれませんが、抜歯矯正を行っている方も同じく抵抗はありながらも選んでいます。
抜歯をするとなると抜歯スペースを利用して、前歯を後退させられます。治療途中に追加抜歯を行うことはたまにあります。
ただ、切り替えてから2年はかかりますので、治療期間はかなり延長されるでしょう。
担当されている矯正歯科医師が抜歯のマウスピース矯正を得意としていない可能性もあります。

・他の遠心移動方法に切り替える
マウスピースで歯が後方移動しないのであれば、旧来の様々な方法で歯の後方移動を行いましょう。
別の方法で歯の後方移動を行って臼歯関係をⅠ級にした後で、またマウスピース矯正に切り替えるということです。
前述で、マウスピース矯正での上顎遠心移動は難しいと申しましたが、
私の場合ですが、臼歯関係のⅡ級の程度が強いとき、別の装置で遠心移動を完了してからマウスピース矯正に移行するようにしています。
また、これも担当している矯正歯科医師がマウスピース矯正以外のテクニックを持っていない場合は行えないでしょう。

・前咬みの癖をつける
これは妥協案としか言えませんが、一番現実的な方法と言えるかもしれません。
上顎前突の方はおそらく、2か所咬み合わせがあると思います。二態咬合と言います。
奥歯で咬んでいる状態と、顎を前に出して前歯で咬んでいる状態です。
本来は、リラックスした状態でゆっくり顎を閉じて奥歯で咬みあっている状態が正しく、
その状態で前歯も当たり、全体的にバランスよく当たっているのが良い咬み合わせです。
ただ、どうしても前歯が咬まない場合は、前咬みの状態でバランスよく咬みあわさせるようにします。
顎の位置としてはしゃくれさせているため、本当は良くないのですが、前咬み状態で安定させるしかない状況もあります。
もしかしたら担当の矯正歯科医師はこれを目指しているのかもしれません。
非抜歯での上顎前突の治療はとても難しく、妥協的ゴールとして前咬み状態で安定的に咬めるようにすることがあります。
全体的に咬みあわさったいるので、問題はないとするわけです。
この状態に持っていくためには、ひたすら顎間ゴムをやり続け、前咬み状態を定着させていくことになります。
結局、今やっている治療と同じやり方になります。

以上が、現状についてと、今後どうすべきかについてとなります。
治療方針については、担当する矯正の先生とよく話し合って決めてください。
おそらく、担当している先生もうまく進んでいないなと感じているはずです。
最初に立てた方針がうまくいかないことは、どんな素晴らしい先生でも起こりえることです。
ご自身の大切な歯並びですから、良好で健康的な咬みあわせを獲得するため、
もしかしたら何かしらの異なるアプローチが必要になるかもれません。

もし、②「上顎の歯と歯の間にスペースが空いており、そのスペースが閉鎖しない状態」であったとしたら、
また回答は変わります。
マウスピース矯正は、歯が動いても動かなくても、次のマウスピースは歯が動いた前提で作られます。
つまり、歯が動いていなければマウスピースと実際の歯並びとのずれが大きくなり、
新しいマウスピースに交換していくにつれ、だんだんとマウスピースが合わなくなっていくはずです。
もし、マウスピースが明らかに浮いてきたりしていないのであれば、歯は動いているはずです。
全体的に歯を動かしていく中で、あえて動かさない(後で動かす)こともあります。順調ということです。
マウスピースが合わなくなっていくのであれば、歯が動いていない可能性があります。
使用時間の不足・装着の不備・アタッチメントの不良などにより、ちゃんと歯に力がかかっていない可能性もあります。
もしくは、骨性癒着(アンキローシス)を起こし、歯と骨が接着してしまい、歯が動かなくなっている可能性があります。
骨性癒着であれば、治療初期から動かないことが多いですが、治療途中に生じることもあります。
マウスピース矯正でスペースが閉じないのであれば、一度ワイヤー矯正に切り替えてみたら動く可能性もあります。
担当する矯正歯科医師がマウスピース矯正専門でワイヤー矯正を行えないかもしれませんが。

引用:矯正歯科ネットでの回答