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矯正コラム

2022.06.20

ムーシールドについて

質問

7歳の娘に関してです。舌癖があり、開咬になっています。矯正歯科に、相談したところ舌癖を治すためにムーシールドを使用すると言われました。
ムーシールドは反対咬合に使用するのではないかと思うのですが、反対咬合ではなく舌癖を治すためにムーシールドを使用するということはあるのでしょうか?

回答

舌癖改善のためにムーシールドを提案されたということですね。
たしかにムーシールドは乳歯列期の反対咬合の改善を目的としています。良くお調べですね。

なぜ反対咬合が治るかというと、舌の位置を挙上させることで舌癖を防止し、上の歯を前に、下の歯を後ろに移動させています。
開咬の治療も、同様に舌を挙上させた位置を記憶させて舌癖を防止していくので、やっていることは同じです。
ムーシールドはかなり昔からあり、年配の先生からは根強い人気があり、好きな先生は多用しているようです。
適応症と完全に一致していないものの、担当の先生はムーシールドで開咬を治した経験があるのか、選択しているのかもしれません。

ただ、担当の先生がムーシールドや開咬の治療に精通しており、明確に治せる自信を持って使おうとしているのか。
はたまた、あまり矯正経験は少なく、小児矯正を少しかじる程度でとりあえずムーシールドを試してみようと思っているのか。
どちらかはわかりません。通常では開咬にムーシールドは使われないですし、矯正をよく知らない古い先生がムーシールドを使うイメージもあります。

小児期の開咬の治療はとても難しく、小児用マウスピースやMFT(舌のトレーニング)を行っても、うまく治らないこともあります。
放置していれば舌で押され続けて開咬はよりひどくなりますし、歯根完成に伴い前歯の生える力も減っていきます。癖を治すのは早ければ早い方が良いです。
7歳というのは開咬を治す上で早すぎることもなく、この年齢を過ぎると徐々に治しにくくなり、成功率が低くなってしまいます。
つまり、あまり無駄なことをしている時間がないということです。

舌癖を治す上で、ただ器具で舌を上げさせておけば治るというものではありません。なぜ舌癖が起きているかも考える必要があります。
舌が大きくて窮屈であれば、顎を拡げてスペースを作るべきですし、舌小帯が長ければ切除なども検討した方がいいかもしれません。
鼻呼吸が出来ず、口呼吸が定着している場合は空気の通り道を作るために舌を下げてしまいますから、耳鼻科的なアプローチも必要になるかもしれません。
鼻呼吸が出来ていても、扁桃肥大により気道が狭くなり口呼吸になるかもしれませんし、出っ歯だと口唇閉鎖不全となり、口を閉じていられません。
さらに、舌の筋力が低下している場合はMFTという舌の専門的なトレーニングをする必要がありますが、MFTを積極的に行なっている歯科医院はあまり多くはありません。

さまざまな要因から舌癖は生じ、舌癖を改善するのはとてもとても難しいです。そして、舌癖改善のマウスピースを使うのは大変で、お子様がどれほど真面目に頑張れるかによっても治療の成功失敗が左右されます。
MFTもお子様・保護者様、歯科医師の三者が協力して取り組まなければなりませんし、もちろん習慣的にご自宅で行うのはモチベーションや親子関係が大切になります。
小児期のみならず開咬治療は難しく、患者さんの努力に依存する部分もあり、ベテランの矯正歯科医師でも苦労します。

開咬が治っても、開咬以外の問題についてもどのように対応していく算段なのでしょう。開咬単独で舌癖治して解決、なんてことはほとんどありません。叢生や上顎前突なども併発しているでしょうし、ムーシールドで治るものではなく、その後の治療も含めて綿密な治療計画が必要になるはずです。
開咬と、それ以外の治療も含めて最終的にちゃんとした正常咬合を達成していく治療の最初の処置として、ムーシールドを選択しているのであれば良いでしょう。効果が出ない時に別のパターンをトライする引き出しがあるとすれば。
ムーシールドを試してうまくいかなかった時に、もう治せませんとなってしまうようであればあまりに無策でしょう。開咬の難しさを知る矯正歯科医師なら、二の矢、三の矢を用意しているはずです。

ムーシールドは、材質がプラスチックで出来ており、かなり硬いです。正直、使用感はあまり良くないため、続かないお子様が多いように思います。また、歯並びを治す効果もなく、本当に癖を治すためだけの装置となります。
ムーシールド以降、さまざまな小児用マウスピースは発売されています。世界的にもっともシェアが大きいのはマイオブレースでしょう。矯正材料の各社が販売しているので、数種類あり、矯正歯科医師ごとに好きなマウスピースがあるはずです。私はマイオブレースとプレオルソを必要な時に使用しています。
ムーシールド以外のものは弾性があり、比較的使用感も良く、歯列弓を拡大したり、歯列を整えたりする効果もあり、歯並び自体もある程度改善されます。タイプによって反対咬合や上顎前突を治しやすいものもあります。多くの矯正歯科医師が利用していますが、ムーシールドよりもこちらのタイプが多いと思います。

長くなりましたが、ムーシールドで開咬を治せないこともないでしょうが、主流の治し方ではなく、効果が出にくい可能性があります。また、開咬の治療は難しく、担当医との信頼関係も大切です。本当に担当の矯正歯科医師が信用出来るのかどうか、よく話し合いをした方が良いと思います。まだ治療が始まっていないような段階であれば、他の矯正歯科も検討してもよいかもしれません。長く大変な道のりですから、後悔のないように納得して治療が出来ると良いですね。