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矯正コラム

2022.06.10

小臼歯4本抜歯について

質問

普通であれば小臼歯を抜歯すると思うのですが、側切歯を抜歯して矯正することは難しいのでしょうか?

通っている先生からはスペースがないので難しいとは言われましたが、ケースバイケースでしょうか?

状態としては重度の叢生です。
右下側切歯が抜髄済みです。
言葉で説明するのは難しいのですが、右下側切歯の根幹治療してから痛いとかではなくて、違和感があります。なので思い切って抜歯した方がいいのではないかと思うようになりました。

小臼歯も抜髄の歯がありますが、違和感はありません。
恐らく小臼歯よりも側切歯の方が薄いので、削った場合の影響が大きいと考えています。

ただ、抜歯した場合のデメリットも調べて、犬歯が中切歯の隣に来ることや、犬歯を削らないといけない事、犬歯誘導など、審美面や、かみ合わせから考えてデメリットも多いと感じました。

矯正はかみ合わせも重要なので、そういう面から考えれば小臼歯抜歯のほうがいいとは思うのですが、念のためと思い質問させていただきました。

回答

側切歯を抜歯するか、第一小臼歯を抜歯するか、というご質問はここ最近大変多いです。
似たようなご質問で過去に私が回答したものがあるので、参考にしていただければと思います。

https://www.kyousei-shika.net/consult/reply/17598/

https://www.kyousei-shika.net/consult/reply/17605/

神経を取ってしまった歯というのは一般的に寿命が短くなります。
血流が無くなり脆くなるのと、歯科処置によって歯が薄くなるためです。
また、根管治療後の歯というのは隙間から菌が侵入してまだ根尖病巣を起こしやすいです。
痛むほどではないが違和感がある、という質問者様の状態は、根尖病巣の再発を示唆しています。
今回は、再根管治療で改善されるかもしれませんが、根管治療を繰り返すうち、
歯が薄くなり、持たなくなり、抜歯となる日がいつかやってきます。

抜歯矯正後では、抜いたスペースを矯正治療で閉鎖することが出来ないので、
人工的な補綴物を入れることになりますが、人工物は一生使えるものではありません。
なので、抜歯矯正をするなら、出来れば神経の無い歯を優先的に抜歯していくべきである、
というのは、多くの矯正歯科医師の共通認識と言えるでしょう。

では、なぜ担当の先生は側切歯抜歯を勧めないのか、ということについて説明します。
日常的に側切歯抜歯はたまにやりますし、下の側切歯は先天欠如を起こしていることが多く、
矯正歯科医師が選択せずとも側切歯が無いケースの治療はよくやっているはずです。

ちゃんと担当の先生から説明があったか、もしくは質問者様が良くお調べなのか、
側切歯抜歯よりも小臼歯抜歯の方がいい理由は質問文の中にあります。
下顎の側切歯は小さいので、抜歯しても多くのスペースを作れないので、
重度の叢生となると、少しでも多くのスペースが必要なので、小臼歯抜歯の方が効果的です。
スペースが足りない場合、抜歯しても歯が前に出てしまったり、歯肉が下がってしまうこともあります。
なるべく前歯を後退させるために、小臼歯を抜歯を選択しているかもしれません。

矯正治療をする上で考えなきゃいけないことにトゥースサイズレシオというのがありまして、
上下の歯の大きさのバランスを合わせないと最終的にうまく咬み合わなくなります。
歯並びは絶妙なバランスで咬みあっており、何かエラーがあるとしっかり咬みあいません。
下の前歯が、123と並んでいる時と134と並んでいる時では、
後者の方が歯の大きさの合計が大きくり、上の前歯とうまく咬み合わなくなります。
なので、下の歯の側面をディスキングして調和を取る必要があります。
削れば済む話ですが、ディスキングが好きでない先生はなるべくディスキングせずに済む方法を選ぼうとするでしょう。

犬歯誘導に関して、厳密にいえば123で並べた方が達成しやすいですが、
134でも4番が犬歯の役割を果たしてくれますし、うまくやれば犬歯誘導に出来ると思います。
審美的にももちろん123の方がキレイですし、134にすると正中が少しずれる可能性もあります。
しかし、無髄歯を処分できることと天秤にかけた時に、そこまで優先することではないと思います。
矯正歯科医師にもいろいろな考え方の先生もいて、担当の先生には譲れないものがあるのかもしれません。

私が思う、側切歯抜歯ではなく小臼歯抜歯にする最大の理由は、臼歯関係の調整がやりにくくなることです。
奥歯の位置関係が、上の第一大臼歯に対して下の第一大臼歯が2~3ミリ前に位置しているのをⅠ級と言います。
臼歯関係をⅠ級にして、叢生を無くし、歯の大きさの調和を取ると、全体的にバッチリ咬み合います。
矯正歯科医師は、基本的には臼歯関係をⅠ級にする(ケースによってはⅡ級)のを目的としてプランニングします。

初めからⅠ級であるなら、その状態を維持しながら治療をすればいいのでシンプルです。
もし、最初がⅡ級である場合(Ⅰ級よりも下の奥歯が後方にある)、下の奥歯を少し前方移動させて
治療が終わった後にⅠ級になるように治療しなければなりません。
Ⅱ級の度合いが強い場合など、下は5番抜きにしてより奥歯が前に移動しやすくしたりすることもあります。

質問者様が出っ歯気味で臼歯関係がⅡ級であるなら、下顎側切歯抜歯はやりにくくなります。
小臼歯抜歯であれば、大臼歯に近いので、臼歯関係をⅠ級にしやすくなります。
側切歯抜歯では、ほとんど臼歯関係をコントロールすることが出来ません。
臼歯関係がⅡ級のままでは、治療終了時に出っ歯で前歯が咬み合わない仕上がりになってしまうでしょう。

私は無髄歯は処分する派の矯正歯科医師ですが、このケースでは側切歯抜歯は選ばないかもしれません。
そうなった場合に、上は2本抜歯、下は側切歯1本のみの3本抜歯というマニアックな治し方がありますが、
叢生が強い場合は下も2本抜歯する必要があるので、質問者様は適応症ではありません。
側切歯抜歯のせいで下の奥歯の前方移動が出来ない場合は、上の奥歯の遠心移動をする必要があります。
遠心移動も大変ですし、不用意に奥歯の位置を調整すると、最終的に歯の正中がずれてしまいます。
つまり、側切歯抜歯をすることで、治療の難易度が跳ね上がり、仕上がりも悪くなる可能性があるということです。

実際に口の中を見ていないので、質問者様にとってのベストプランがどうであるかは分かりませんが、
側切歯抜歯をすると治療が大変なってしまう可能性があります。
担当医ももちろん大変でしょうし、実際に治療を受ける質問者様が大変な思いをすることになります。
楽をしたいと思う先生でなければ、治療経験から患者さんにとっての一番良いプランを提案すると思います。
その中で、矯正歯科医師による好みや技術・知識や考え方の差が出てくるはずです。

他の矯正歯科医師に相談してみたら、側切歯を抜きましょうと言ってくれる先生もいると思いますが、
側切歯抜歯は本当に質問者様のためになるかはわかりません。
提案通りに小臼歯抜歯で矯正治療を行い、側切歯はダメになったら歯を入れる方がいいプランの可能性もあります。
そもそも担当の先生はそう考えて、小臼歯抜歯を勧めているはずですから。
側切歯を抜歯するプランにしたのであれば、もう一度担当の先生と相談をするか、
セカンドオピニオンや転院などもご検討ください。