医院名:マロニエ矯正歯科クリニック 
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矯正コラム

2022.03.20

失活歯抜歯について

質問

1.上右側いずれか抜歯が必要、8番ともう一本抜歯。
2.上左側も本来は8番抜歯だが、左上7番の歯がかなり外側に出ており、こちらを抜いて8番を生かす方がよいかもしれない。
3.下はおそらく抜歯不要。

以下、質問です。
①1.について、右上5番が失活歯ですが、失活歯の抜歯を希望は可能か。
②2.について、左上7番は失活歯ですが奥歯の場合も、形や失活歯であることを考慮し抜歯したほうが良いか。
右上7番も失活歯だが同じように8番を生かした方が良いか(右上側は、8番抜歯と思うとのこと)。
③3.について、左6番が失活歯で銀のクラウンで、体調が悪いときに微かに痛む日があり、この機会に抜歯したほうが良いのか…とも考えてます。
ただし、8番が埋伏で、水平ではないが斜めになっている。「6番抜歯→7番を6番の位置へ→生えた8番を7番へ移動」というのは現実的に可能か。可能な場合、デメリットはあるでしょうか。
4.以上の処置は、一般歯科で行えますか?

回答

すべて歯は残っている状態でしょうか?細かい抜歯本数や抜歯部位の特定は、
・欠損歯があるかどうか、すべての歯が残っている状態なのか
・左右の第一大臼歯の位置がⅠ級か、Ⅱ級か、Ⅲ級か
・上下の歯の正中は顔の中心に一致しているか、ずれているか、どちらにずれているか
・前歯は出っ歯かどうか、口元はでているかどうか
・歯茎が健康状態か、歯茎が下がっているかどうか
・歯の大きさは正常か異常か、健全歯か失活歯か
がわからないと、具体的な説明が出来ず、誤診につながります。
この質問内容ですと、最後の失活しているかどうかしかわからないので、その点だけについてお答えします。

前提として、神経が生きている健全歯と、神経を取り除いた失活歯では、歯の寿命が異なります。
歯の中には神経とともに、血管が通っていて、血流があり、植物のように生きています。
虫歯などが神経まで到達してしまうと、痛みを伴い、仕方なく神経を除去する必要があります。
この際に、一緒に血管もなくなってしまうため、歯には栄養がいかなくなります。

ゾンビ状態になっている歯を無理やり残している状態で、枯れた木のように歯はもろくなります。
歯が割れてしまうこともあれば、根尖性歯周炎が再発することもあり、失活歯を抜かざるを得なくなります。
鉢植えの花よりも花束の花の方が早く枯れてしまうように、健全歯よりも失活歯は寿命が短くなります。

ゆえに、抜歯矯正を行う際は、健全歯よりも優先的に失活歯を抜歯するようにプランニングをします。
質問者様のお考えのように、長持ちしない方の歯を抜歯するのがベストですが、
どの歯を抜歯するのか、というのは矯正治療の仕上がりと難易度に影響していきます。
初めから失活歯を抜歯するプランを提案されていないということは、そちらの方が難しいプランだということですね。

①右側に関しては上のみ抜歯をする、ということはⅡ級仕上げという状態にもっていくつもりということでしょう。
私の質問の回答の中に、Ⅱ級仕上げについて細かく回答しているものがあるので、参考にしていただければと思います。
下の第一大臼歯よりも上の第一大臼歯が前に来ている状態で咬み合わせを作るわけですが、
現段階の奥歯のずれがかなり強い場合は、右上5抜歯をすると治療期間が長くなり、難易度もあがります。

スペースを閉鎖する際に、4番抜歯であれば、3番を下げる→前歯を下げる、2ステップになります。
5番を抜歯すると、4番を下げる→3番を下げる→前歯を下げる、3ステップになります。
治療期間は半年~1年ほど長くなりますし、上の奥歯が前方移動するリスクも大きくなりますから、
上の奥歯の前方移動を防止するための追加装置(ナンスのホールディングアーチアンカースクリューなど)が
必要になる可能性もあります。難易度が少し上がります。

簡単に治したい矯正歯科医師は4を抜きますし、失活歯を処分したい矯正歯科医師は5を抜くでしょう。
質問者様から提案すること自体は良いことだと思います。それを受けてどうするかは矯正歯科医師の判断でしょう。

②左上7が失活しているのであれば、抜歯して左上8と交換するのは良いと思います。
右上7の失活歯を抜いて、右上8を使というのも可能だと思います。
ただ、第三大臼歯は形が良くないこともあります。変な形だったり、小さかったりするので、
歯としての価値が低いとみなされる場合があります。
6や7と変わらない大きさ・形であれば、残すに足る良い親知らずであると思います。
①で述べている通り、7抜きで8使用が難易度が高い可能性があります。
難しい治療である、というのはすべて患者さんに返ってきますので、選択は慎重になります。

③左側は小臼歯を抜く予定が無い、ということはⅠ級なのだと思います。
臼歯関係がⅠ級で、下6のみ抜歯するとなると、78を完全に近心移動する必要があり、
なおかつ、前歯は1mmたりとも後退させてはならない、ということです。
これはアンカースクリューの使用が必須であり、治療期間も下手すると5年を超えるかもしれません。

歯は1か月に最大で1mmしか動かず、下の奥歯は最も動きにくいのです。
大臼歯の近遠心的幅はは約11mmほどです。7を6の位置に移動させるのに2年、
近心傾斜している8を7の位置に移動させるのに3年はかかるかもしれません。
あまりに非現実的なプランなので、やめた方がいいでしょう。失敗する可能性も高いです。
せめて上の歯も小臼歯抜歯をする予定があり、臼歯関係がⅡ級であったならトライしなくもないですが。

④一般歯科で行えるか、というのは一般歯科医師が行えるか、という意味でしょうか。
それとも、一般歯科医院に非常勤勤務している矯正歯科医師で行えるか、という意味でしょうか。

前者である場合は、難しいと思います。ノーマルでない治療というのは、経験や発想が必要になります。
最低でも100ケースくらいは臨床経験が必要だと思います。
普通のケースを普通に治すのは一般歯科医師の方でも出来る人はいると思います。
難しいケースを難しく治すのは、治療経験に長けた専門的な矯正歯科医師が良いと思います。

後者の場合は、ある程度の矯正歯科医師ならば可能だと思いますが、難しい方法はきっとは嫌がられます。
非常勤の矯正歯科医師は、フリーランスでいろいろな歯科医院をめぐっていて、一医院には月に1、2回しか来ません。
難しいプランを選んでしまうと、治療期間が伸びてしまうために医師の収入が相対的に減る、
治療期間が伸びるとクレームが出るが、クレーム対応をする時間が無い、
難しいプランに必要な、アンカースクリューなどの矯正の道具が一般歯科医院に揃っておらず、出来ない、
フリーランスの矯正歯科医師はずっと勤務し続けるわけではなく、後任の歯科医師に難しいケースを残したくない、
難しい治療をやりたい矯正歯科医師は、常勤の矯正歯科医院に勤めるか、開業をすることが多い。
などなど、さまざまな理由から、非常勤矯正歯科医師は難しい方法は選ばないと思います。

一般歯科医師でも、非常勤矯正歯科医師でも、矯正専門医院の矯正歯科医師でも、
実力は様々ですし、治療に対する考え方も、全く異なってくると思います。
ちゃんと親身になってよい治療をしてくれる、信頼できる先生に診てもらうと良いと思います。

治療のプランは、一つしかないこともあれば、複数考えうることもあります。

①簡単で、治りが良いプラン
②簡単で、治りがいまいちなプラン
③難しくて、治りが良いプラン
④難しくて、治りがいまいちなプラン

があるわけです。
①の場合は、あきらかなるベストプランなので、それ以外を選ぶ必要が無いでしょう。
複数ある場合は、①が存在しないという意味であり、②か③の中から何か一つを選択することになります。
簡単だけど治療結果がいまいちなプランと、難しいけど治療結果が良好なプランがあるはずです。
それぞれのプランの、メリット・デメリットを考えたうえで、希望する方法を選びましょう。
④の難しくて治療結果が悪いプランはそもそも提示されません。

質問者様の希望する、積極的に失活歯を処分するプランは、治療後を考えるととても良いと思います。
しかし、難易度が上がり、治療期間が伸びる可能性が高く、そのリスクを負うのは質問者さん自身です。
よく矯正担当の先生と話し合い、一番納得がいく方法を選択するといいと思います。