医院名:マロニエ矯正歯科クリニック 
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矯正コラム

2022.03.18

IPR矯正でどれくらい下がる??

質問

過去に上下の犬歯を抜歯した歯科矯正歴があります。
生まれつき全体的に歯が大きいため抜歯矯正をしたあとも若干出っ歯が気になりIPR矯正でもう少し下げたいと思っています。
IPR矯正でどのくらい出っ歯が下がるのでしょうか?
過去に抜歯矯正をしていても可能でしょうか。

また、これは普通ありえないと思うのですが、二度抜歯矯正をやる場合はあるのでしょうか?

回答

犬歯を抜歯するのはめずらしいですね。第一小臼歯を抜歯するのが一般的です。
もちろん、理由があって犬歯を抜歯することもあります。

IPRというのは、歯の側面部を削ることを言います。ディスキング・ストリッピングとも言います。
歯のエナメル質内にとどめていれば、歯を削っても問題が無いとして矯正治療ではよく行います。
1歯あたり、0.5mmまでは削って大丈夫と言われています。
根拠としては、エナメル質の薄い部分が約1mmほどで、その半分程度なら問題が無いだろうと。
また、削りすぎると歯が小さくなりすぎて見た目もおかしくなるので、0.5mm程度が最大とされています。

前歯6本削れば合計3mm、全体的に削れば合計5mmほどのスペースが獲得できることになります。
なるべく前歯を下げたいのであれば、限界までIPRを行うとして、5mmのスペースを作ることになりますが、
作ったスペースを2で割った数値が、前歯が下がる量になります。
つまり、限界まで歯を削ってスペースを作ったとしても、2.5mmくらいしか前歯が下がらないということです。
2.5mmで満足でしょうか?劇的な変化にはなってくれないと思います。
抜歯矯正だと、だいたい1本7~8mmほどで、左右で抜歯するので14~16mmものスペースが作られます。
なので、過去の抜歯矯正で得られた効果と比べると、そんなに前歯が引っ込んだ感じはしないと思います。

スペースを作る方法は、全部で5種類あります。それ以外の方法はありません。

①抜歯をする
②顎を横に拡大する
③歯の側面部を削る
④歯を後方移動する
⑤歯を前に出す

この方法の中で、①のみ行ったのが今の結果だと思います。
①②③④の方法でスペースを獲得し、でこぼこを改善したのちに、余ったスペース分前歯が下がります。
非抜歯矯正などで作ったスペースがでこぼこを治しきるのに足らなかった場合は、
歯が前に出て治ります。(これが⑤です)非抜歯は出っ歯になりやすいです。
今の状況から前歯を下げるためには、③だけでなく、②④も一緒に行えば、より後退させることが出来ます。
つまり、顎を拡げる、歯を後方移動する、も組み込むということです。

顎を拡げる治療は、顎を拡げる装置を使用して行います。いろいろな種類があります。
すでに成人していらっしゃるので、そこまで大幅に顎が拡がってくれたりはしません。
無理して拡げると、咬み合わせがおかしくなったり、頬側の歯茎が下がってしまいます。
作れるスペースは、だいたい2~3mm程度だと思います。
矯正治療後に顎が狭くなりやすいので、全体を覆うタイプのリテーナーが推奨されます。

歯を後方移動する治療も、それを達成する装置が様々あります。
歯を後方移動する際、奥行きが必要なので親知らずは抜歯する必要があります。
後方移動は時間がかかる、そこまでたくさんスペースは作れない、本人の努力が必要、
など、得られるスペースと大変さが見合わないので、どうしてもスペースが欲しいときのみ行います。
作れるスペースは、だいたい2~3mm程度だと思います。
歯の後方移動(遠心移動)は、矯正治療後に戻りやすいという難点もあります。

上記のIPR量に加えて、顎を拡げたり、歯の後方移動を行うと、約10mmくらいはスペースが作れるかもしれません。
5mm前歯が引っ込めば、割と変化を感じられると思います。これが前歯を後退させる限界量です。
やることが増えれば増えるほど、治療期間は増加していきます。歯科医院によっては費用も変わるでしょう。
どこまで前歯を引っ込めたいか、がどんな方法を組み合わせてスペースを作るか、に影響しますので、
再矯正を行う歯科医院の担当医とよく話し合って決めるといいと思います。

抜歯矯正でも非抜歯矯正でも、矯正後に再矯正を行うことは可能です。
再矯正できるかどうかは、歯の周りの歯槽骨や歯肉が健康であるかどうかが大事になります。
歯周組織が健康であれば、再矯正が可能ですし、ボロボロなら再矯正しない方が良いでしょう。

抜歯矯正後に、さらに追加で抜歯して再矯正を行うことは、たまにあります。
永久歯の本数は、通常は28本です。一般的な抜歯矯正は上下左右で1本ずつ抜歯をするので、
4本抜歯することになり、結果として24本の歯並びになります。
28本の歯並びと24本の歯並びの機能やどれだけ歯が残るのかを比較した研究からすると、
28本でも24本でも差はあまりないとされています。これが、抜歯矯正を行っても問題が無いとされる根拠です。

では、24本より歯を減らしていいものか、というのはとても迷います。
さすがに減らし過ぎではないかと思う矯正歯科医師が多いと思います。
しかし、矯正治療後において、歯並びがかなり崩れてしまい、咬み合わせが全然咬みあっていないとした時、
24本残っていても、歯として機能している歯が10本くらいしかないケースがあります。
そういう時は、残った歯が全体的にしっかり咬みあっている方が歯が残りやすいのではないか、
と考え、歯の総数を減らしてでも追加で抜歯をしたりすることもあります。
歯は咬むためにあり、咬んでいないなら最悪抜いてしまっても良いのではと。

親知らずが残っていたりする場合は、それを有効に活用し、合計本数が減らないようにすることもできます。
前述のように、抜歯が圧倒的にスペースが獲得できますので、場合によっては追加抜歯もあり得ます。
実際に、過去に抜歯矯正経験のある方を追加抜歯で治療することもあれば、矯正治療中に追加抜歯を行うこともあります。
抜歯=4本まで、と決まっているわけではありません。ちゃんとした咬み合わせを作るのに必要なだけ抜歯します。

本当は、一回目の矯正治療を行う際に、抜歯だけでは十分に歯が下がらないことが分かっていたとしたら、
抜歯以外の方法も追加していきながら、質問者様が納得するところまで前歯を下げておくべきだったかと思います。
治療を担当する矯正歯科医師でも、治し方や考え方が変わるので、治療開始前の綿密な話し合いが重要になります。

矯正治療後の仕上がりにご満足いただけない方、というのはたまにお見掛けします。
出来れば矯正治療は人生で何回もやりたくはないと思いますので、
再矯正を行う際には最後の矯正治療となるように、担当医と治療計画のすり合わせをしっかりされると良いと思います。